篤志
このブログを設けたのは、心に得ることを書き留め、言霊の散逸を防ぐためであり、後代の批評に耐えうる一片の言の葉でも残せたらと念じているためである。では、何を以て為すのであろうか。何をするか、どう生きるか、自分の命をどう使うか、理想的な主題を持つことを先賢は篤志と称した。

聖書で言うならば「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ」(口語訳聖書 創世記 第一章二十八節)

つまり神の三大祝福:個性完成・子女繁殖・万物主管を達成することである。


礼記大学篇では、「修身齊家治国平天下、格物致知誠意正心」

格物→致知→誠意→正心→修身→齊家→治國→平天下。学んで知ることにより心を正しくし、大きな事ができるようになることである。


さすがにでは大仰なので、庵主の学術上の専門分野に即したMission Statementを昔の著述から記す。




1.はじめに

 ナノテクノロジーはコンシューマーの段階に来たと言われる。消費財としては安全性を第一に、再現性に優れた製法に基づき、機能が安定して発現するものでなければならない。ナノ粒子は合成・集積時に不可避である非理想性の問題や、生体への危険性が指摘されながらも、「産業の米(コメ)」のように不可欠の素材になりつつある。このナノテクを利用するバイオ解析の創製に向けて独自の応用を進める。



2.古くて新しい素材:金ナノ粒子

 金や銀のナノ粒子の分散液(コロイド)は深紅色や緑黄色など独特の色を示す。例えば金ナノ粒子が持つ色は古くからCassiusの紫という顔料やステンドグラスに利用されてきた。また、金コロイドが凝集すると、この色調は深紅色や青紫色のように多様に変化する。これらは、金属に光が照射されたときの自由電子の振動に基づく「プラズモン」という光の共鳴現象であり、色調は、自由電子の振動に影響する因子=サイズ(粒子径)、形状、そして粒子の集合状態に対応している。ナノ粒子という微小領域に局在するプラズモンを、理論から合成・評価・応用に至るまで体系的に利用しようとする学術領域が「プラズモニクス」であり、物理、化学、生物にわたる幅広い領域において活発に研究されている近未来技術である。



3.蛍光法に代替する新しい検出法

 局在プラズモン共鳴では、粒子表面近傍の電場が著しく増強されるのでさまざまな非線形現象が観察される。表面増強ラマン散乱というのはその現象のひとつで、物質の化学構造を光で直接観察することができる。言わば色素を用いずに一分子レベルでの物質の同定と定量が可能になる。この検出法は、従来の検出技術=蛍光色素による検出法と比べ、色素を用いない、安定性に優れる、妨害の少ない近赤外光での検出が可能、複数の分子を直接同定できる、等の利点を持つ。蛍光法では色素合成や標識操作に多くの労力を費やしていることから、表面増強ラマン散乱が従来法に代替・補完する可能性が指摘され、バイオ検出技術にうまく応用できれば数兆円規模の市場が顕在化すると見られる。



4.光とナノ、ナノとバイオを結ぶ

 表面増強ラマン散乱の最近の研究では、間隙やエッジを有し、鎖状に凝集した貴金属ナノ粒子の異方性構造が重要な役割を持つことがわかってきた。あたかも光を受けるアンテナのように長軸方向の自由電子の集団振動が高い分極率と電場増強をもたらすのである。一般に拡散律速で凝集する微粒子の凝集形態には、つごうの良いことにこの鎖状集合が自発的に現れる。しかし通常では、凝集が進行するためにせっかくできた異方性構造が失われるという問題があった。我々は前述の特性を持つ貴金属ナノ粒子を素材に、その集合状態を制御・安定化させる研究に取り組み、粒子の局在プラズモン共鳴を効率的に活用する液状試薬の開発に成功した。含まれる金ナノ粒子表面には保護修飾剤を使用せず、バイオ分子と相互作用できる活性表面が維持されている。この試薬を使うと、従来は利用しがたかった表面増強ラマン散乱を簡便に利用できるので、測定事例を増やすべく大学、国研との共同研究を進めている。



5.まとめ

 先に述べた制御安定化技術は、学生との雑談をヒントに、当時、リストラで失業していた創業者と同志社大学・大阪市立工業研究所との個人的な研究協力で見いだされた。産学連携が組織化された今ではこのような想定外の連携は難しくなったかも知れない。しかし学術研究機関に用意されたポストの数が、研究者として養成された者100人に対して1人ぶんにも達しないという現状では、研究者が実世界(Real World)にどんどん入って活躍することが求められる。その道筋は多様であることが望ましい。起業は辛い選択であり決して勧められないが、論語の一節「知之者不如好之者、好之者不如樂之者」は日々試行錯誤と研鑚を重ねる技術者が持つべき矜持でもある。もし己の腕に依って自立しようとされる方と共に切磋琢磨させていただければ幸甚である。


(オプトロニクス社 InterLab, 2005年11月号に掲載したものを一部手直し)

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